壺齋散人の 映画探検
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かぞくのくに:ヤン・ヨンヒ



2012年の映画「かぞくのくに」は、在日朝鮮人と北朝鮮のかかわりあいをテーマにした作品である。監督のヤン・ヨンヒは韓国籍だそうだが、両親は北朝鮮籍だったという。そのヤン・ヨンヒが、北朝鮮に対する徹底的な批判意識というか、拒絶感情のようなものを、この映画に込めていると伝わって来る。近親憎悪ともいうべきその感情がどこから来ているのか、日本人の筆者にはわからない。ディストピア社会に生きる同胞への憐憫なのか、あるいは嘲笑なのか、それとも侮蔑なのか。

日本で生まれ、十六才の時に北朝鮮に渡った北朝鮮籍の男が、二十五年ぶりに日本に戻って来る。脳にできた腫瘍を治療するためである。日本には両親と妹が暮らしているので、その家族の支援を受けながら治療に臨もうと考えている。しかし彼には北朝鮮のエージェントが同行していて、かれの動向を常に監視している。時には命令をしたりもする。その命令に対して男は反抗せず、黙々と従う。そんな兄を妹が批判すると、御前にはわからないといって請け合わない。北朝鮮には自分の家族を残しているし、その安全のためにも、政府の意向には逆らえないのだ。

男は家族とともに大病院に赴き、治療方針を立てたり、昔仲よくしていた在日コリアンたちと旧交を温めたりして、なんとか自分の未来に希望を持とうとする。ところがいきなりエージェントから北朝鮮への帰国を申し渡される。理由は告げられない。一方的で、理不尽な命令だ。そこに北朝鮮という国の、非合理な体質が露骨にあらわされているという風に、映画は表現している。そうした理不尽さの思いを観客に抱かせながら映画は終るのである。

映画を見た限りでは、完璧な人権侵害であり、そうした人権侵害がまかりとおる北朝鮮という国は、この世の地獄、あるいはオーウェルのいうようなディストピアだといふうふうに伝わって来る。重ねていうが、そのようなメッセージをなぜ、韓国籍のヤン・ヨンヒが発したのか、興味深いところだ。

この映画の中の男は、北朝鮮政府の特別の計らいで日本に治療に来たということになっているが、そのようなことが実際にあったのか、不勉強の小生にはわからない。この男の父は、朝鮮総連の幹部らしく、家の中には金日成と金正日の写真を飾っているような人物だから、北朝鮮政府が特別の配慮をしたのかもしれない。それにしても、こうした形での来日が珍しくなかったのか、小生にわからないほど、北朝鮮関係の事柄はニューズになりにくいということなのか。

2012年といえば、そろそろ日本国内で朝鮮人・韓国人バッシングが高まる時期だ。そうした時期に、韓国籍のヤン・ヨンヒが北朝鮮を厳しく非難するこのような映画を、日本人向けに作ったのはどういうわけか。あらためて疑問を抱く。

「かぞくのくに」とは、家族が暮らしている国という意味だろう。その国である日本は、北朝鮮に比べればずっと生きやすい場所だというような雰囲気が、この映画からは伝わって来る。




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