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川島雄三の映画「暖簾」:昆布に一生を捧げた男



川島雄三の1958年の映画「暖簾」は、「わが町」同様、大阪を舞台にした人情劇である。「わが町」は頑固一徹の大阪人が、女房が残した一人娘と、その一人娘の残した一人娘つまり孫娘を、男手ひとつで育て上げるけなげな姿を描いていたが、この「暖簾」は、淡路島から飛び出してきた少年が、大阪の昆布屋に拾われて、やがて暖簾分けを受け、自分の店を拡大していく様子を描いている。要するに大阪商人の商人としてのど根性をテーマにしているわけだ。

森繁久彌が主人公の商人を演じている。前半では丁稚からたたき上げ、やがて自分の店を持って商売に励む吾平を演じ、後半では、敗戦で街を焼かれた大阪に復員してきた息子幸平を、一人二役で演じている。

吾平は、丁稚時代から仲のよかったお松(乙羽信子)と夫婦になりたかったのだが、主人(中村鴈次郎)が許してくれず、主人の姪(山田五十鈴)と無理やり結婚させられる。当初はわだかまりをもった吾平だが、性根を入れ替えて女房をかわいがり、やがて三人の子供を設けたばかりか、店も大いに繁盛させた。そんな順調な生活も、戦争によって破壊される。空襲で店や財産を失い、また長男に戦死され、この先どうしてよいかわからない。幸いに次男の幸平は復員してきたが、ぶらぶらして働こうとしない。そんな次男に吾平は怒りをぶつけるのだったが、そのうち次男の気がかわって、父親の商売を引き継ぐ姿勢を見せる、というような内容である。

二代にわたる大阪商人の意地を描いたといえる作品だと思うのだが、その意地がいささか独りよがりで、しかも商人として時代の動向にマッチしていないところを感じさせる。一応息子は、古い概念を脱して自由な発想をみせるようなところがあるが、基本的には父親の事業を継ぐという範囲に収まっている。そういった意味では、進取の気風に欠けていると言えなくもない。そういう消極的で時代迎合的な姿勢は、右肩上がりの時代には通用するが、不況や低調な時代には通用しない。この映画のなかの森繁のような生き方にこだわっていては、じり貧に陥るばかりだと思わせられる。

山田五十鈴演じる女房は、当初は夫に対して上から目線で対応しているが、やがて夫に従順な女房に変貌していく。その従順な女房ぶりが、山田五十鈴としては破格の演技となっている。一方、幼馴染のお松を演じた乙羽信子は、とことんお人好しの女を演じきっている。



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