壺齋散人の 映画探検
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新海誠のアニメーション映画「君の名は」 若い男女の入れ替わり



2016年公開のアニメーション映画「君の名は」(新海誠監督)は、戦後大流行したラヂオ・ドラマ「君の名は」とは無関係である。ラヂオの「君の名は」は、若い男女のすれ違いをテーマにしたものだったが、この映画のテーマは、若い男女の入れ替りである。若い男女の入れ替りというテーマは、大林宣彦の映画「転入生」を想起させる。「転校生」の中の男女は、同時代に身近に生きている男女が入れ替わってしまうというものだったが、この映画では、すでに死んでいる女性と、生きている男性とが入れ替るのである。

その若い女性は、飛騨地方のある村に生きていた。その村に彗星の一部が隕石として落下してきて、村の多くの住民が死んだ。女性もその一人だったということになっている。ところがその死んだはずの女性が、東京で暮している高校生の男性と入れ替わる。なぜそんなことがおきたのか、それはわからない。ただ、若くして死んだ女性の怨念が、自分の魂だけでも、生きている男性に乗り移らせたというふうに伝わってくる。つまり女性にしてみれば、この世への未練が他人の身体への魂の乗り移りをさせたのであり、また高校生の男性にしてみれば、若くして災害で死んだ女性への哀惜の念が、女性の魂を受け入れさせたということなのであろう。

もっとも、女性のこの世への未練は最初から明示されているが、高校生の哀惜の念は、映画が進み、女性が死んだ原因が明らかになるにつれて表面化するにすぎない。しかし事情が分かってくると、かれには若い女性への哀惜の念が強く迫ってくるように感じるのである。

女性が死んだ原因は、彗星の隕石が落下した、自然災害だったということになっている。だから観客はこの映画に、東日本大震災を重ねてイメージすることとなった。この映画が大ヒットしたのは、そこに理由があるのだと思う。人々はこの映画を見て、あの大震災の記憶を掻き立てられたのではないか。映画では、せまりくる危機を前にして、避難に成功したものと、避難できなかった人との間で、運命が分かれたことが強調されているが、それはあの大震災にも共通して言えることである。主人公の若い女性は、他人に避難を呼びかけながら、自分は逃げ場を失って死んだのである。同じような人が、あの震災の時にもいたことを思い出させる。

そんなわけでこの映画は、アニメーションでありながら、あるいはアニメーションだからこそか、日本人の自然災害への接し方を強く考えさせるものとなっている。




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