壺齋散人の 映画探検
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野村芳太郎「疑惑」:死亡事件をめぐる裁判劇



野村芳太郎の1982年の映画「疑惑」は、松本清張の同名の小説を映画化したもの。ある死亡事件をめぐって、犯人の嫌疑をかけられた女と、その女の弁護を引き受けた女弁護士のかわりあいを描いた作品である。容疑者を演じた桃井かおりと、女弁護士を演じた岩下志麻の丁々発止のかけひきが映画のみどころである。筋書きの展開は、付録のようなものといってよい。

一台の車が暴走して海に転落する。車の中から一人の女が救助されるが、彼女と一緒に乗っていた男は死亡する。警察は女が亭主を殺したと疑い、マスコミはそれを規定事実として、女を攻撃する大キャンペーンをはる。そうした雰囲気が蔓延する中で、女に社会的制裁を加えようとする世論が形成される。その世論の強いプレッシャーを受けながら裁判は展開していく。次々と出される「証拠」は、女にとって都合の悪いものばかりだったが、女弁護士の超人的な努力で、裁判は無罪に終わるといった内容だ。

女が社会的な制裁にさらされるのは、その生き方があまりにも反社会的なものだったからだ。それが彼女への反感を生み、権力とマスコミが一体となって彼女への攻撃を加える。それに対して女弁護士は、冷静に対応し、ついには無罪を勝ち取るのだが、時には女へ疑惑を抱かないでもない。こんなに飛んでる女なら、殺しもやりかねないと思うのだ。だが、結局は女への信頼をうしなわず、それが無罪獲得につながるのである。

こんなわけでこの映画は、日本の司法制度やマスコミのあり方についての深い懐疑を感じさせる。女を排除せんとする社会全体が、暴力的なのであって、それにさからう容疑者の女や彼女を弁護する女弁護士は、人間として当然の反応をしているにすぎない、といった雰囲気を感じさせるのである。




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