壺齋散人の 映画探検
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デンマーク映画「アナザーラウンド」 男の更年期障害



2020年のデンマーク映画「アナザーランド(Druk)」は、男の更年期障害というべきものを描いた作品。四十歳の節目を迎えた四人の男たちが、無気力に陥り毎日を自信をもって生きることができない。そこでなんとか気分を奮い立たせて、もっと充実した生き方ができないかと思案する。かれらが注目したのは、アルコールの血中濃度ををつねに0.05パーセントの状態にたもてば、気分はつねに生き生き、人間関係もうまくいき、充実した生活が送れるという、ある学説であった。かれらはその説を実践してみようという気になる。その結果、気分がハイになったはいいが、アルコールの度が過ぎ、急性アルコール中毒になってしまうというような内容だ。

四人は同じ学校に教師として勤めている。主人公格のマーティンは生徒をうまく指導できないし、保護者から苦情を受けたりもしている。ほかの三人も何らかの問題を抱えている。そんなかれらが朝から酒を飲み、アルコールの血中濃度を0.05パーセントに保つとすこぶる調子がいい。気分はハイになるし、生徒の評判もよくなる。そこで欲が出たかれらは、アルコールの濃度をもっと高めたらどうなるか、実験してみる気になる。つねに酒を補給しなければならないので、学校に酒を持ち込む。それが教師仲間に問題にされ、生徒が飲酒しているのではないかとの憶測を呼んだりする。かれらには嫌疑がかからない。それをいいことに、かれらの実験は次第にエスカレートしていく。

その結果かれらはみな、重度の急性アルコール中毒に陥ってしまうのである。主人公のマーティンは妻と激しく衝突して、離婚話に発展してしまうし、ニコライは年甲斐もなく寝小便を垂れる。トミーは、事故を起こして死んでしまう、といった具合だ。そこで事態の深刻さをさとったトミー以外の三人は、なんとかアルコールをたって立ち直ろとする。なんとかうまくいきそうだし、マーティンは妻と復縁できそうだ。喜びにたえない。そんな喜びの表情を写しながら映画は終わるのである。

デンマークの映画らしく、キルケゴールの名前が出てきたりする。キルケゴールは、卒業試験の課題としても取り上げられるほどなのだ。だが、高校生たちにどれだけキルケゴールが理解できているか、はなはだ心もとない。それにしても、四十歳で更年期障害になるとは、デンマークの男たちはずいぶんヤワにできていると感じさせられる。なお、原題のDrukは、デンマーク語で暴飲を意味するそうだ。




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