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フィンランド映画「オリ・マキの人生で最も幸せな日」
世界チャンピオンに挑戦するボクサー



2016年のフィンランド映画「オリ・マキの人生で最も幸せな日(ユホ・クオスマネン監督)」は、世界チャンピオンに挑戦するあるボクサーの生き方をテーマにした作品。結局かれのその夢は実現しなかったので、スター誕生というわけにはいかなかったが、そのかわりに、もっと素敵なものを手に入れる。好きな女性と結婚することができるのだ。だから、タイトルの「人生で最も幸せな日」というのは、ボクサーとしての夢が実現した日ではなく、恋人と共に結婚指輪を買いに行った日だったのである。

小生も、家人と婚約し、おそろいの結婚指輪を買いに行ったことを覚えている。銀座の宝石屋日本堂に連れだって赴き、そこで指輪を品定めしたときの幸福な気分は今でも忘れられない。この映画の中の恋人たちも、やはり幸福な表情をしていた。もっともそのことで試合に気が入らなくなり、男はチャンピオンになりそこねたのであるが。

オリ・マキという小柄な男が主人公。かれはフェザー級の世界選手権に挑戦できることが決まった。マネージャー兼プロデューサーの男が、かれの才能を見込んで、すべてお膳立てしてくれたのだった。フィンランド人が世界王座に挑戦するのは初めてのことであり、世界チャンピオンがフィンランドから生まれるのも初めてのことなので、国中が盛り上がる。金持ちたちが協力して興行に必要な資金を出してくれる。マネージャーの男は、自分自身貧乏生活で、とても資金を調達できる能力はないので、金持ちたちに取り入って金を出してもらうほかないのだ。金持ちたちも、もしフィンランドからチャンピオンがうまれたら、それをビジネスチャンスに生かせるとあって、打算から金を出すのである。

オリ・マキには大きなプレシャーがかかる。試合にいたるまでの彼の生活ぶりを記録映画に仕立てる話が進行し、かれの周囲には様々な人間がやってきて、そのためにかれは仕事に集中できない。もっとも大事なのは減量に成功することだが、減量は孤独な戦いなので、他人からちょっかいされるのはいやなのだ。だが、最後の力を振り絞って減量に成功したかれはリングに上がるのだが、もはや体力が消耗しつくしていて、とても戦える状態ではなかった。じっさいかれは、まともに戦う余裕もなく、二回のしょっぱなにノックアウトされるのだ。

負けた彼に注目するものは、もう誰もいない。そのかわり恋人と二人だけで過ごせる時間を持つことができた、というような内容で、スター誕生のネガ版ともいうべき作品である。




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