壺齋散人の 映画探検
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ノルウェー映画「母の残像」 女性の生き方



ノルウェーで活躍するヨアキム・トリアーの2015年の映画「母の残像(Louder Than Bombs)」は、ノルウェーではなくニューヨークを舞台にしており、登場人物に英語をしゃべらせている。ノルウェーは人口が少なく、ノルウェー語では多くの観客を獲得できないので、最初から英語で構成する作品が結構ある。ヨアキム・トリアーは「オスロ三部作」など、ノルウェーにこだわった映画を作ることで知られているが、この映画は英語で作った。

死んだ女性をめぐって、その夫と子供たちが苦しむというような内容の映画である。家族の喪失感がテーマといってよい。それにしては、その女性は結構勝手な生き方をしたあげくに、事故で死んだということになっており、自業自得の面があるのであるが、残された家族は、彼女の思い出を大事にしているのである。

彼女は生前気鋭の女性写真家で、仕事に生きがいを感じていた。死んだのは事故が原因なのだが、夫は自殺を疑っている。うつ病に陥って自殺を選んだと思っているのだ。その原因まではわからない。そのうち、彼女と仕事の付き合いがあった男が、彼女の回顧展を催し、それにあわせて彼女を回想する記事を書くといってきた。その記事が彼女の自殺に触れるのは、家族として受け入れられない。そう思った夫は、息子らにへんな記事が出るかもしれぬから気にするなと煙幕を張る一方で、記事の作者に、どんなことを書くつもりかとせまる。すると意外なことが明らかになる。妻はその男とできていて、海外に取材旅行するたびに、セックスしていたというのだ。そのことに夫はショックを受ける。妻が海外にたびたび行きたがったのは、その男とのセックスを楽しみにしていたからだ。

ずいぶん不道徳な話である。それでも、夫や子供たちが、その女性に幻滅しないのが面白い。ノルウェーでは、人間にはそれぞれ好き勝手なことをやる権利があり、それをとやかくいって批判するのは大人げないといった考えが定着しているのかもしれない。もっとこの映画は、アメリカで起こったアメリカ人の話だというふうに、言い訳しているのだが。いずれにしても、日本では、まだまだそこまではいっていない。

主演の女性を演じたイザベル・ユペールはフランス人で、出演時62歳だったが、年よりだいぶ老けて見える。七十代半ばくらいに見えてしまう。小生も七十代半ばだが、彼女のような皺はない。




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