壺齋散人の 映画探検
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オタール・イオセリアーニ「素敵な歌と舟はゆく」:グルジア人から見たフランス



オタール・イオセリアーニはグルジア人だが、色々な事情があって、グルジアで映画を作ることがむつかしくなり、フランスで映画作りをするようになった。1999年の映画「素敵な歌と舟はゆく(Adieu, plancher des vaches!)」は、フランスで作った作品であり、パリを舞台に、フランス人たちの生き方を描いている。

これは外国人から見たフランスといった体裁の映画である。外国人としてフランスを見た映画としてまず思い浮かぶのは、スペイン人のルイス・ブニュエルの作品だ。ブニュエルはフランス人(特に女)の好色さと背徳振りを皮肉たっぷりに描いた。それに対してイオセリアーニは、好色さや背徳振りを強調しているわけではない。その自由奔放な生き方を強調している。だからどちらかというと、フランス人に対して肯定的である。憧憬がこもっているといってよいほどである。

色々な人物が出てくる。ブルジョワの一家、貧しい清掃人夫、カフェのウェイトレス、町のごろつきなどだ。それらの人物たちが勝手気ままに行動する。その行動振りが、どたばた喜劇ふうに展開されるというわけである。

イオセリアーニのグルジアらしさを感じさせるところもある。音楽のメロディには東方の響きが感じられるし、町の描き方にも東方的な猥雑さが感じられる。面白いのは、大きな女が数多く出てくるところだ。そうした大女が、小男と渡り合う。そのへんは、フランスの女の実力に対する、イオセリアーニの感嘆が込められているのかもしれない。こんなに大女が目立つ映画は、ざらにあるものではない。

ブルジョア一家の亭主が、ホームレスの髭男と昵懇になったあげくに、ともに帆船に乗って旅立つところは、あのルネ・クレールの名作「自由を我らに」のラストシーンを思い起こさせる。タイトルの原題は「陸地よさらば」という意味で、舟での旅立ちをイメージしている。舟で旅立つのは、ブルジョアの息子とそのごろつき仲間も同じで、かれらもボートで海洋を目指すのである。海のないグルジア出身のイオセリアーニにとっては、海は自由の象徴なのだろう。



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