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デヴィッド・リーン「ライアンの娘」:アイルランド人女性の奔放な生き方



デヴィッド・リーンの1970年の映画「ライアンの娘(Ryan's Daughter)」は、アイルランド独立闘争を背景にして、アイルランド人女性の奔放な生き方を描いた作品。あくまでも女性の生き方が前景化したものであり、独立闘争は背景に過ぎないのだが、その女性が不倫関係に陥った男が英国軍兵士ということで、要するに二重に禁断の恋になっているというのが、この映画のミソである。

アイルランドのある港町が舞台である。ライアンは町で酒場をやっており、一人娘がいる。その一人娘ローズ(サラ・マイルズ)が、学校の教師をつとめる中年男に恋をうちあける。まだ若い彼女が、中年男に恋をしたわけははっきりしない。狭い町のなかで息苦しい暮らしをしているので、変化を欲したのだろうと思われる。

彼女は町の皆に祝福されて結婚できたのだったが、 いざ初夜を迎える段になると、夫のチャールズ(ロバート・ミッチャム)がインポになってしまう。その後もチャールズは、彼女の性欲に応えてくれないので、彼女は強い欲求不満に陥るのだ。

そんな折に、町に駐屯している英軍部隊の司令官として、若い将校(クリストファー・ジョーンズ)が赴任してくる。その将校を、ローズは一目で惚れてしまい、不倫の関係に陥る。そんな妻の振る舞いを、夫はうすうす気づいてはいるが、あえて追求しようとはしない。彼は妻を愛しており、また妻が欲求不満なのは自分に原因があると悟っているからだ。なにしろ、立たないのでは、仕方がない。自分が立たなければ、他に立つ相手を妻が求めるのももっともだと思って、自重しているのである。そんな二人の関係を、町の教会の牧師(トレヴァー・ハワード)が心配する。この牧師は、二人の結婚に立ち会ったばかりか、なにかと二人の面倒を見るのである。

一方、町の外ではアイルランド人の過激分子が英国軍を相手に闘いの準備をすすめている。そのメンバーの中に、町出身で伝説的な英雄扱いされている男がいた。その男を介して、町は騒ぎに巻き込まれる。男が自分たちの行動に町の住民を巻き込むのだ。その騒ぎのなかで、若い将校率いる英国軍部隊が、過激分子の弾圧にかかる。その弾圧騒ぎの中で、町出身の英雄が、住民の眼の前で、若い将校に撃たれる。それを見た住民たちの怒りの矛先は、ローズに向けられる。この女が将校に密告して、弾圧の手引きをしたと思いこんでいるのだ。

住民たちはローズをさらし者にする。衣服をはいで裸にし、髪も切り落してしまうのだ。そんな彼女を夫は必死に守ろうとする。そこで彼女は、やっと夢から覚めるのであるが、もはや手遅れだった。というのも、あれほど辛抱強かった夫が、別れ話を持ち出したからだ。かくして彼女の不倫の愛は終わりを告げ、夫も失うという結末を迎えるのだ。

こんなわけで、一人のアイルランド女の性欲をあからさまに描いた作品ということができる。それにアイルランド独立闘争を巧妙に絡ませているわけである。わずかの時間の出来事に、三時間を超える時間をかけてとっているので、丁寧な印象を与える作品である。




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