壺齋散人の 映画探検
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ジョン・フォード「リオ・グランデの砦」:騎兵隊三部作



ジョン・フォードの1950年の映画「リオ・グランデの砦(Rio Grande)」は、騎兵隊三部作の第三作目。ジョン・ウェインが一作目と同じくカービー・ヨークという名前で出ている。また、モーリン・オハラがウェインの妻を演じ、息の合ったところを見せてくれる。テーマは、先住民族との戦いに家族の愛をからませたもの。ジョン・ウェイン演じる前線の指揮官が、突然現れた息子と、息子の後を追ってきた妻に面して、家長としての役割と、軍指揮官としての役割とをうまく両立させるといった内容だ。

リオ・グランデは、メキシコ国境を流れる川のことだろう。その川を、先住民が行き来しながら、騎兵隊を脅かしている。それをなんとか制御して、白人社会の安全を守ることが、騎兵隊に課せられた課題だ。前二作では、先住民のインディアンは自己防衛的に描かれ、かならずしも好戦的というイメージはなかったが、この映画の中では好戦的に描かれている。それはおそらくフォード自身の考えというより、制作者の意向が反映しているのだろう。この映画のパトロン、ハーバート・イェーツは金儲け主義で、大衆に迎合した映画ばかりつくっていた。大衆受けということでは、先住民を悪役として描いたほうが都合がいいのである。

先住民の三つの部族が、共同で砦を攻撃してくる。ウェインたちはそれを撃退し、数名を捕虜にしたりするが、いたちごっこになるだけだと考え、先住民の全面撃退を狙う。そこで砦に住む女性や子供らを、前線から離れた別の砦に移送する。それに妻を同行させ、息子を護衛役につける。ところが移送の途中先住民に襲われ、妻と息子は無事だったが、大勢の子供たちが連れ去られてしまう。ウェインらは、子供らを取り戻すために、先住民のキャンプに押し入り、子供らの奪還に成功するのである。

先住民をなかなか制御できないのは、国境のかなたまで追っていけないからだ。メキシコ側は、アメリカほど先住民のことを気にしていない。ウェインは共同で先住民を駆逐することを提案するが、ていよく断られてしまう。先住民に対する姿勢が、アメリカ側とメキシコ側では違うということを感じさせられる、じっさい、歴史的な事実としては、アメリカの白人が先住民を敵視していたのに対して、メキシコの白人は、融和的だったようである。かれらの間の国境となるリオ・グランデ川が、馬で簡単にわたれるほど浅いのに気づかされる。こんなに浅いのでは、メキシコから多数の移民が押し寄せてきて、アメリカに不法入国するのは簡単だ。それをトランプが騒ぎ立てたのは、或る意味当然の反応だったともいえる。

映画の見どころは、先住民との対決というより、ウェインの妻と息子に対する家長としての愛情だろう。そこにヴィクター・マクラグレン演じる曹長がからんで、なかなかしんみりとして人情を感じさせるようにつくられている。単純な西部劇ではない。




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