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オーソン・ウェルズ「黒い罠」 アメリカ警察に巣くう悪党



オーソン・ウェルズの1958年の映画「黒い罠(Touch of Evil)」は、犯罪捜査をテーマにした作品。しかもその犯罪を犯した者がアメリカの警察官であり、それをオーソン・ウェルズが演じている。オーソン・ウェルズには、「第三の男」のような悪党のイメージがあって、それがこの映画では正面に出ている。この時ウェルズは40をちょっと超えた中年男になっていたが、でっぷりと肥満し、若いころの面影はうすい。一方相役のチャールトン・ヘストンは三十代後半の男盛りで、勢いを感じさせる。ウェルズは身体が大きい方だが、ヘストンはさらに一回り大きく見える。

アメリカ国内のメキシコ国境の都市で有力者の爆殺事件がおこる。この国境地帯は、相互に自由に行き来できるところから、エル・パソとフアレスあたりだと思われる。事件はアメリカ側でおこり、たまたま現場に居合わせたメキシコの捜査官(ヘストン)が強い関心を示す。かれには本来捜査権はないのだが、アメリカの捜査当局が関与を認める。一方アメリカ側では、ウェルズ演じる古参刑事が事件を担当する。こうしてヘストンとウェルズが事件をめぐってしのぎあいをするうちに、意外なことがわかってくる。事件の真犯人はウェルズ演じるアメリカの刑事だったのである。

日本人の感覚では、警察官が殺人事件の常習者だというのは、荒唐無稽な設定だが、アメリカでは、警察の腐敗はめずらしいことではないらしい。アメリカ市民は、警察を信頼しておらず、自分が事件に巻き込まれたときには、警察にたよらず自力で解決する傾向が強い。そういう国柄だからこそ、警察官による殺人事件という設定が、現実感をもって受け入れられるのであろう。そんなこともあって、この映画はいまでも一部のアメリカ人に熱狂的に支持されているそうだ。そういうたぐいの映画を、カルト映画という。

だが、それにしても、ウェルズ演じる刑事がなぜ、殺人を犯すのか、その動機がいまひとつわからない。かれは、長い下積み生活の中で、世の中に不満をもっているということになっているが、その不満が殺人に結びつく理由がはっきりしない。しかもこの警察官は、自分の犯した罪を他人になすりつけて、無実の人間を死刑にすることを楽しんできたということになっている。そういう設定の極端さが、一部のマニアに熱狂的に支持される理由なのかもしれない。ともあれ、映画の出来はあまり芳しいとはいえない。ウェルズの渋い演技で成り立っている作品である。




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