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モロッコへの道:ボブ・ホープの珍道中シリーズ



1942年のアメリカ映画「モロッコへの道(Road to Morocco デヴィッド・バトラー監督)」は、ボブ・ホープとビング・クロスビーが、アメリカ版弥次喜多よろしく、世界中を冷やかしながら笑いを巻き起こす「珍道中シリーズ」の中でも、もっとも人気を博した作品。クロスビーの本職は歌手であり、ボブ・ホープも歌がうまいとあって、笑いだけでなく歌も楽しめるシリーズである。

シリーズのどの作品も、二人のアメリカ人が、世界の田舎を冷やかし歩き、文明人としての上から目線で、現地住民を笑い飛ばすという趣向になっている。アメリカ人には、白色人種の代表者としてのプライドがあるらしく、自分以外の人種はみな野蛮な生き物である。その野蛮な生き物を相手に、好き勝手なことをして、笑いの種にするというわけである。

この作品(モロッコへの道)の場合には、大西洋をアメリカに向けて進んでいた船が難破したために、いかだに乗って漂流するうちに、どういうわけかアフリカの砂漠に迷い込む。その砂漠の果てにはモロッコがあって、そこでひと騒ぎ巻き起こした後に、二人は現地の王女とか、酋長たちとの間に奇妙な関係を持つ。その挙句に、酋長らをうまくかわして、王女とその従者の女を手に入れ、彼女らを伴ってアメリカのニューヨークにたどりつくというような筋書きである。

野蛮なモロッコは最終的な目的地にはならない。最終的な目的地は、文明の象徴としてのニューヨークである。そうした白人種らしい思い込みが強く感じられる作品である。

ボブ・ホープは、一時日本でも人気があった。日本人もかれにとっては野蛮人の一種なので、日本人を種にジョークを飛ばすときには、日本語を含めて日本的なものを徹底的に馬鹿にした。それを見た日本人は、腹をたてるところか、かえって腹をかかえて笑いながら、かれのウィットに感心したものである。

筋書きは、とりたてて言うほどのこともないナンセンスなもので、ただただ観客の発作的な笑いをねらったギャグの連続からなる。要するに程度の低いコメディなのだが、そうした程度の低さがアメリカ人には受けたということだろう。面白いのは、第二次大戦にアメリカが参戦して、国中が戦争騒ぎをしているときに、この映画が作られたということだ。程度は低いが、文句なしに笑えるような映画を、アメリカ人が求めていたということかもしれない。なお、酋長の一人にアンソニー・クインが扮している。クインはのちに、性格派俳優として映画界を席巻するが、この映画に出たころはまだ、かけだしの俳優だった。




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