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スティーヴン・ソダーバーグ「セックスと嘘とビデオテープ」:
嘘と偽善に満ちたアメリカ人の男女関係



スティーヴン・ソダーバーグの1989年の映画「セックスと嘘とビデオテープ(Sex, Lies, and Videotape)」は、嘘と偽善に満ちたアメリカ人の男女関係を描いた作品。描かれているのは、比較的豊かなアメリカ人に典型的な風景だ。そこには乱れたセックスと嘘があふれているというわけだ。

主人公は、弁護士の夫をもった中年女。弁護士というのは、人工的な国家アメリカにおいてもっとも流行っている職業だ。人工国家においては、人間関係は極めてドライであり、そうした人間同士の絶え間ないトラブルを弁護士が仲裁する。弁護士の仕事は法とか正義の実現ではなくて、人間同士のトラブルを仲裁することであるから、ものを言うのは人間的な良心ではなく、人を説得する技術である。その技術には無論嘘をつく技術も含まれる。というか、嘘こそが弁護士にとくに求められる資質なのである。

そんなわけだから、弁護士ほど人間的な温かみと縁遠い職業はない。だから親密な人間関係をつくるには適していない。じっさいこの映画の中の弁護士の夫は、かなり人間性に劣った生きものとして描かれている。その夫は妻との間ではセックスレスであり、そのため性欲のはけ口を妻の妹に求めている。つまり妻は自分の妹と二人で、一人の男を共有しているわけだ。そのことから来るストレスのためか、妻は神経症の治療を受けている。

そんな彼らの前に、夫の学生時代の友人が、数日間の予定で尋ねて来る。ヒッピー風の変わった男で、妻は興味を掻き立てられる。その挙句、彼が町に借りた部屋へひとり押しかけていく。その前に、妹も興味を持ってその男に会いに行く。姉妹はその男からビデオテープのことを聞かされる。そのテープというのは、女へのインタビューを撮影したものなのだが、そのインタビューというのは、セックスについての経験を語らせたものだった。

姉妹とも、自分にもそのインタビューをしてもらいたいという。インタビューの中で姉妹は、自分自身の性的経験について語る。二人ともセックスについて、いやな体験があるようで、それを語ることで、カタルシスを得られたと感じるようなのだ。

カタルシスを得て自分が大きくなったと感じた姉妹は、それぞれ自立を目指す。妹は姉の夫との関係を断ち切り、姉は姉で夫と離婚して、一人で生きようと思うのだ。だが、その友人の男とは、全く新しい気持ちで関係を結びたいと考えている。

というようなわけで、いかにもアメリカ人らしい男女のあり方を描いている。こういう男女関係は、社会の空気がドライになるにつれて、どこでも見られるようになるのだろうと思わせるところに、この映画の歴史的な意義があるのかもしれない。




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