壺齋散人の 映画探検
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アメリカ映画「グラディエーター」:古代ローマの歴史劇


2000年のアメリカ映画「グラディエーター(Gladiator)」は、古代ローマを舞台にした歴史劇である。とはいってっも史実を尊重したものではない。逆に史実を捻じ曲げている。捏造といってよい。金を儲けられる映画をつくるためには、史実の捏造など朝飯前といったハリウッドの率直な本音を感じさせる作品だ。

哲学王として知られるマルクス・アウレリアスと、かれの忠実な将軍の生きざまがテーマだ。映画では、マルクス・アウレリアスがローマを共和政体にもどすために、息子への譲位をしりぞけ、将軍マクシムスにゆずり、かれに共和制の復活を委嘱する。父親の意志を知った息子コモドゥスは、父親を殺して自分が帝位をつぎ、マクシムスを迫害する。かれの妻子を惨殺したうえ、彼自身を殺害しようとするのだ。殺害をまぬがれたマクシムスは、興行師に奴隷として買われ、闘剣士としての人生を歩みながら、ひそかに復讐の機会をねらう。その甲斐があって、ついに宿敵コモドゥスを倒すことに成功する、というような内容だ。

この筋書きには、一切根拠がない。マルクス・アウレリウスは、共和政体への復帰をたくらんだことはなく、じっさい自分が生きている間に、息子に事実上譲位している。また、マクシムスという人物像は、歴史上に実在せず、全くの作り物である。その作り物を主人公にして、荒唐無稽な物語を作り上げているわけだから、捏造といったわけである。

映画の見どころは、ローマのコロセウムにおける、マクシムスとコモドゥスの対決だ。それに先立って、皇帝の近衛兵たちとマクシムスら奴隷たちとの壮絶な戦いがある。その戦いにおいてマクスムスは超人的な働きぶりをみせ、五万の大観衆をうならせるのである。

要するに、史実を無視した活劇といってよい。だから、人物像をすべて架空のものにして、純粋にフィクションとして売り出してもよかったわけである。にもかかわらず、歴史劇という言葉を用いて、あたかも実際にあったことのように見せかけるのは、あまりほめられたことではあるまい。




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