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サム・メンデス「アメリカン・ビューティ」:中流家庭の崩壊を描く



サム・メンデスの1999年の映画「アメリカン・ビューティ(American Beauty)」は、中流家庭の崩壊をテーマにした作品。アメリカの典型的な中流家庭は、家族の濃密なつながりの上に成り立っているので、成員の間に感情の齟齬が生じると壊れやすい。この映画の中の家族は、濃密な感情を互いに持てなくなったためにいとも簡単に崩壊するのである。

夫婦と高校に通う娘からなる三人家族が主人公である。父親は広告代理店に努めているが、リストラされたことがきっかけで精神的な余裕を失う。母親は、経営する不動産業がうまくいかないうえ、近所のライバル不動産屋と肉体関係を結ぶ。夫婦生活がうまくいかず、欲求不満に陥っていたからだ。娘は学校でチアガールをしてるが、その女友達に父親が惚れてしまう。若い女の子の歓心をかおうとして、筋肉トレーニングにはげむほどのいれこみようだ。

左隣には、サイコの問題を抱えているらしい少年とその家族が住んでいる。少年は、過去に精神病院にいれられたことがあるが、それは父親がバツとして措置したことだった。その父親はナチスの礼賛者であり、優生思想の持ち主である。彼は息子がマリファナをすっていることがゆるせない。また、息子がゲイであると疑ってもいる。そんな息子はなぜか父親に逆らえない。そんな息子に娘は恋心を覚えるのだ。

右隣には、ゲイのカップルが住んでいる。父親は、かれらと一緒にジョギングするなど、差別的な態度はとらない。このゲイカップルは、最初にちょっと出てくるだけで、重要な役割は果たしていない。映画はあくまで、主人公の三人家族の関係と、それとのからみでサイコの少年の動きに焦点を当てるのである。

いろいろな出来事が淡々と描かれたのちに、父親が銃殺される処で終わる。そのシーンが直接出てくるわけではないので、誰が犯人か想像するしかないが、どうやら母親が撃ったらしい。彼女は、不倫の現場を夫に見られて気持ちが動転していたのだ。しかしなぜ、夫に殺意を抱いたのか、そこのところは曖昧である。殺意はむしろ、娘のほうにあった。娘は、サイコの少年に父親を殺してほしいとたのんでいたほどなのだ。

そんな具合に、かなりわかりにくいところのある映画だが、興行的には成功して、アメリカでは大ヒットしたそうだ、中流家庭の多いアメリカでは、他人事とは思われなかったのであろう。

なお、タイトルにある「アメリカン・ビューティ」とは、薔薇の品種のことで、映画の中では妻が育てていることになっている。さまざまな場面でそれが使われている。また、サイコの少年が、ホームレス女の死体の美しさをアメリカン・ビューティと呼んでいる。




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