壺齋散人の 映画探検
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アメリカ映画「アラバマ物語」 アメリカ南部の黒人差別



1962年のアメリカ映画「アラバマ物語(To Kill a Mockingbird ロバート・マリガン監督)」は、アメリカ南部で暮らす弁護士とその二人の子供たちの親子愛を描いた作品。それに黒人差別をからませてある。舞台は1932年のアラバマになっており、その時代のアメリカ南部の黒人差別が、どうしようもないほど根深かったことを思い知らせてくれる映画である。

グレゴリー・ペック演じる弁護士フィンチとその子供たちが主人公。子供は二人いて、妹のスカウトの視線から映画は描かれるという具合になっている。彼女の本当の名はジーン・ルイスというのだが、知りたがり屋なお転婆であることからスカウトというあだ名を付けられたのであろう。

かれらが住んでいる町で暴行事件が起きる。黒人が白人女性を暴行した咎で逮捕され、その弁護をフィンチが引きうける。裁判所の判事からの強い要請を受けてのことだ。黒人の弁護を引き受けたフィンチに対して、白人たちは面白くない気持を抱く。その気持ちは理屈とは関係ないので、理屈が命の弁護士としては如何ともしがたい。ましてアメリカの裁判は陪審制度をとっており、その陪審員の担い手である白人たちの偏見がものをいう。

そんな状況の中で、フィンチは法廷に臨む。そこでフィンチは、完璧な理屈と証拠を示して弁論を展開するのであるが、結局は有罪となる。しかも被告の黒人は、その直後刑務所の監視に射殺されてしまう。脱走を図ったという理由からだ。そんな具合に、アメリカ南部における黒人差別が、司法システムをゆがめているという事情がよくわかるように伝わってくる映画である。

映画の後半はもっぱら法廷の場面であるが、そこにもスカウトは居合わせていて、彼女なりの目線から裁判の様子を見ているのである。対して前半部分は、子供たちの世界が中心に描かれる。

映画の最後では、兄妹が何者かに襲われ、兄が骨折する事件が起きる。襲ったのは暴行事件の被害者の父親だった。父親は、娘がフィンチに侮辱されたことが我慢できず、かといってフィンチ本人には立ち向かえる自信がないので、その息子を襲ったというわけである。そこに謎の人物ブーが介入し、兄を救い出す。その際に、襲った男をナイフで殺す。それは正当防衛なのだが、事件の背景をよく知っている保安官は、表ざたにせずに解決しようといってくれる。アメリカでは、司法の権威がそんなに高くないことを匂わせるような設定である。

原題にあるモッキンバードとは、泣きまね鳥のことだという。ツグミの一種らしい。




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