壺齋散人の 映画探検
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小林政広の映画:作品の解説と批評



小林政広は、現代の日本社会が抱えている様々な問題を、独自の切り口から丁寧に描き続けた映画作家である。その姿勢は首尾一貫している。そういう点では社会派に属するといえる。ただ、単に社会派ということばで片づけられないものを持っている。かれの表現の仕方には独特の感性が込められていて、それが深い人間的共感を呼び起こすのだ。いわば、砂のごときドライな人間関係をウェットなタッチで描いたようなのだ。

小林政広がもっともこだわったのは、家族関係の危機ということだ。初期の作品「歩く、人」は、解体しかけた家族の関係をなんとかして立て直そうとする様子を描いたものだし、「バッシング」は、世間から村八分にされ、バッシングにさらされる家族が、必死になって生き続けようとする様子を描いていた、結局バッシングたえられなくなった父親が自殺する結果になるし、主人公の娘はそんな日本社会を見限って海外に脱出する。

「愛の予感」は、小林の名を世界的なものにした作品だが、これは彼としては一風変わった作品である。殺人事件をめぐって、加害者の母親と被害者の父親とが、同じ空間で共存するところを描いたものだが、筋書きのいかんよりも、演出の意外さが注目を集めた。この映画は、無言劇の体裁をとっており、そこが非常に新鮮に思われたのだと思う。

晩年の三部作ともいえる「春との旅」、「日本の悲劇」、「海辺のリア」は、仲代達矢の魅力を十二分にひきだしたもので、仲代の演技を見るだけでも得をした気になる。この三作もまた、現代日本の家族関係が抱える諸問題をテーマにしていた。それに肉親愛とか、貧困問題とか、痴呆老人とかいった同時代の日本がかかえる諸事象をからませてある。

先に、小林の映画にはウェットなところがあるといったが、それは演出にかかわりがある。小林の演出は、溝口健司の確立した手法に立脚しており、極端な長回し、ロングショット、それに沈黙の多用といった要素を組み合わせて独特の世界を作り出している。小林は、日本でよりも海外での評価が高いのであるが、それはかれのそうした演出法に理由があると思われる。

ここではそんな小林政広の主要な作品をとりあげ、解説しつつ適宜批評を加えたい。


小林政広「歩く、人」:老人の意地を描く

小林政広「バッシング」 不寛容な社会

小林政広「愛の予感」 無言劇

小林政広「春との旅」 祖父と孫娘の触れ合い

小林政広「日本の悲劇」:格差社会の負け組を描く

小林政広「海辺のリア」:現代日本の親捨物語




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