壺齋散人の 映画探検
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吉田喜重「女のみづうみ」:不倫のツケ



吉田喜重の1966年の映画「女のみづうみ」は、中年女の婚外性交をテーマにした作品。婚外性交とは、いまふうに言えば不倫である。映画の中では浮気という言葉も使われている。その浮気ないし不倫のツケというべきものが、この映画の主題的なテーマである。

岡田茉莉子演じる中年の主婦が、欲求不満をまぎらわすために、若い男と不倫つまり婚外性交をしている。ところが脇が甘い彼女は、自分のヌード写真を愛人にとらせ、それが他人の手に渡ってしまう。しかも自分の不注意からフィルムを盗まれてしまうのである。当然のように、盗んだ男(露口茂)からゆすられる。女は世間体をはばかりなんとか隠密に解決しようと努力するがうまくいかない。女はわざわざ片山津温泉まで出かけて行って、盗んだ男と交渉しようとするのだが、その男の目的は、金ではなく、彼女の体だった。こいつは、いまでいうストーカー、わかりやすくいえば痴漢なのである。その痴漢との駆け引きは、スマートではない。痴漢が現像を依頼した写真屋のおやじまでが、事情を知って女をゆする始末である。

女はどういうつもりか、相手の男に体をゆるす。そのシーンからは、女のほうが積極的に見え、この痴漢に発情したように伝わってくる。だが、女は、男が油断したのをいいことに、海岸にさそいだして、崖から突き落とす。その直後に亭主がやってきて、女から事情を聴きとる。女はもう片づけましたと答える。ところが片付いてはいなかった。男は生きていて、女に迫ってくるのだ。

この簡単な筋書きからわかるとおり、愚かで世間知らずな女の独り相撲といったような内容である。その愚かな女を岡田茉莉子が演じている。岡田にはもともと、頭の足りないような印象があるので、こうした役回りは苦手ではないと思う。だがその役回りの演技ぶりが、どこか若尾文子を想起させる。とくに出だしのシーンやサングラスをかけたところなどは、若尾の表情に似たものを感じさせる。尻を振りながら歩くところなども、若尾を意識しているように見える。岡田は若尾とは同い年なので、この大女優を強く意識していたのかもしれない。

一方、相役を演じた露口茂は、今村昌平の映画「紅い殺意」でも痴漢役を演じており、こうした役柄に親和的なイメージを与える。




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