壺齋散人の 映画探検
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賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の映画:主要作品の解説


賈樟柯(ジャ・ジャンクー)は、中国映画のいわゆる第六世代を代表する映画監督である。陳凱歌(チェン・カイコー)や張芸謀(チャン・イーモウ)ら第五世代が、文革を経て改革開放時代の経済発展を背景に、躍進する中国に暮らす人々の楽観的な気持ちを表現する一方、過去の伝統とか、日本による侵略の批判といった、懐古的な作品を生みだしたのに対して、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)らの第六世代は、発展を遂げた中国における新たな問題、格差とか社会の分断とかを取り上げるようになった。賈樟柯(ジャ・ジャンクー)もまた、経済発展にとり残された内陸部に暮らす人々に主に焦点をあてた作品を作った。そういう点では、先行する世代の監督に比較して、社会的な視線をより強く感じさせる。

日本の映画界と縁が深く、長編二作目の「プラットホーム」(2000年)は、オフィス北野の協力を得て作っている。オフィス北野との関係は、その後の作品「青の稲妻」や「世界」にも引き継がれた。「青の稲妻」(2002年)は、内陸部の四川省を舞台に、経済発展にとり残された地域の若者たちの、絶望のようなものを描き、「世界」は、北京が舞台ではあるが、地方から出稼ぎにきた若者たちを描いており、地域格差が若者の命運に強い影を落としている事実を批判的に描いている。

「長江哀歌」(2006年)は三峡ダムの建設に従事する人々や、ダムによって水没させられ、生活基盤を失う人々の不運を描き、「四川の歌」(2008年)は、四川省にある軍需工場が、役割を終えて閉鎖されてゆく過程を描く。この軍需工場は、かつて日本に見られた企業城下町のようなところで、社員とその家族は、すべてこの工場のなかで生活を完結することができたのである。

「罪の手触り」(2013年)は、オムニバス形式をとりながら、改革開放の中で、うまく世の中を渡るものと、世の中の流れに乗れずに落ちこぼれていくものとの対比を強烈なタッチで描く。「山河ノスタルジア」(2015年)も、勝組と負け組の対比を描いたもので、これも山西省を舞台にしている。続く「帰れない二人」も山西省を舞台にしており、賈樟柯の山西省への強いこだわりを感じさせる。かれは山西省の出身であり、汾陽で生れ、三世大学で映画を学んだそうである。

賈樟柯は、女優の趙濤(チャオタオ)を、「プラットホーム」以降、すべての長編映画で起用しているが、彼女はまたかれの妻でもあった。決して美人とは言えないが、なかなか渋い演技で見る者をうならせる。

賈樟柯(ジャ・ジャンクー)は、どちらかといえば寡作であるが、作った作品はどれもすぐれているといえる。


賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の映画「青の稲妻」:中国内陸部の若者たち

賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の映画「世界」:現代中国の若者たち

賈樟柯「長江哀歌」:三峡ダムの建設

賈樟柯「四川のうた」:企業城下町の盛衰

賈樟柯「罪の手ざわり(天注定)」:改革開放の明暗

賈樟柯の映画「山河ノスタルジア」:中国経済発展のゆがみ

賈樟柯の映画「帰れない二人」:中国の新しいタイプの女




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