壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板



ルネ・クレール「夜の騎士道」 フランス軍のドン・フアン



ルネ・クレールの1955年の映画「夜の騎士道( Les Grandes Manœuvres)」は、女たらしの軍人の恋の手練手管を描いた作品。クレール自身はこの映画を、数多くあるドン・フアンものの一つと位置付けている。ドン・フアンは17世紀の伝説上の人物で、ヨーロッパ諸国で女たらしの典型としてあまたの芸術作品のモデルとなってきた。小生は、ボードレールの詩やドラクロアの油彩画を通じて、地獄を船で放浪するイメージしか知らないが、クレールはそのドン・フアンを軍人のプレイボーイに見たてて、手練手管を弄して女を口説き落とすところを描いた。クレールの作品としてははじめてのカラー映画である。

筋書きは大したことはない。ただドン・フアンことアルマン中尉が、さんざん苦労して女を口説いたにかかわらず、相手のマリー・ルイーズから最後は愛想をつかされてしまうのが印象的。クレール得意のハッピーエンドにはなっていないのだ。女は、アルマンが自分を賭け事のタネ扱いしたのを知って、激怒したのである。じっさいアルマンは、当初は賭け事に勝つもりでマリー・ルイーズに近づいたのだったが、そのうち本気で惚れてしまったのだった。ところが賭け事の件を知られてしまって愛想をつかされるのである。

そのマリー・ルイーズをミシェル・モルガンが演じ、アルマン中尉をジェラール・フィリップが演じている。そのときモルガンは35歳、フィリップは33歳だった。モルガンはカルネやデュヴィヴィエの映画に出て、世界的な名声を博した女優だ。この映画の中の彼女は、年齢なりの色気を見せてくれる。

なおこの映画は、軍人が女の尻を追いかけるさまをコミカルに描いているのだが、それが、フランス軍人は女の尻を追いかけること以外に能がないと誤解されかねないとして、その筋からクレームがあったという。




HOMEフランス映画 ルネ・クレール次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである