壺齋散人の 映画探検
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岡本喜八の映画:代表作の解説


岡本喜八は、1950年代末から60年代にかけて、娯楽色の強い作品を作り続けた。その点で同世代の増村保蔵と比肩する。二人は年齢も同じである。ただ、作風には違いがある。増村が娯楽に特化した作品を作り続けたのに対して、岡本には戦争批判の視点があった。その視点から戦争を批判する映画をかなりな数作った。いずれも戦争を冷笑的なさめた視点から眺めたものだ。

冷めた視線は、岡本一流の喜劇的なタッチを支えているとともに、自らの軍隊体験にも根差している。岡本は軍隊生活を体験する中で、日本軍の非合理さと戦争のばからしさにうんざりしたという。そうした個人的な体験があったからこそ、日本及び日本軍を徹底的に茶化すような作品を多く作ったのであろう。

岡本喜八の出世作は1959年の「独立愚連隊」で、これは日本軍の満州における戦いぶりを西部劇風にひねって描いた作品だった。舞台設定からストーリー展開まで徹底的に日本軍を茶化すようなスタイルを通している。「独立愚連隊西へ」は、そのバリエーションで、やはり満州における日本軍の戦いをコミカルに描いている。この二作はかれの作風の原点となるものだが、そこに現れていた批判精神と喜劇的な作風はその後も一貫してかれの作品を特徴づけた。

戦争ものと言うべき作品としては、「血と砂」(1964)、「日本の一番長い日」(1967)、「肉弾」(1968)などがある。「日本の一番長い日」は、終戦当日における若手将校たちの徹底抗戦を求めるクーデタをテーマにした作品だが、これは岡本喜八としてはめずらしく、コメディ的な演出とは無縁なシリアスな作風に仕上げている。岡本喜八個人として、なにか感ずることろがあったのかもしれない。

戦争と関係のない映画としては、「江分利満氏の優雅な生活」(1963)、「ああ爆弾」(1964)、「殺人狂時代」(1967)などがある。「江分利満氏」は原作の雰囲気にこだわるあまりちょっとしまりのないものになったが、「ああ爆弾」と「殺人狂時代」は岡本喜八らしいコミカルさを満喫させてくれる。

1970年代の前半はあまりぱっとしなかった。日本映画界全体が沈滞期というべき時期に差しかかった頃だった。しかし1978年には「ダイナマイトどんどん」を作って大いに気を吐いた。これは岡本らしいサービス精神に富んだ作品で、菅原文太の型破りの演技もあって大いにヒットした。岡本喜八の代表作といってよいのではないか。

岡本喜八最後の傑作は「ジャズ大名」(1986)である。これは筒井康隆の小説を映画化したもので、荒唐無稽ではあるがその分サービス精神に溢れた作品で、岡本喜八の集大成というべきものであった。

こんな具合に岡本喜八は、自身体験した軍隊生活への反省から、戦争と軍隊の非合理性を徹底的に批判する作品を多く作る一方、自らの持ち味であるコミカルなサービス精神を発揮した映画を多く作り続けた映画監督であるここではそんな岡本喜八の代表作をとりあげ、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたいと思う。


独立愚連隊:岡本喜八

独立愚連隊西へ:岡本喜八

江分利満氏の優雅な生活:岡本喜八

岡本喜八「ああ爆弾」 和風ミュージカル

岡本喜八「血と砂」 少年音楽隊の軍事活動

岡本喜八「殺人狂時代」 優勢保護思想をひやかすブラック・コメディ

岡本喜八「肉弾」:魚雷特攻の悲哀

岡本喜八「日本でいちばん長い日」 敗戦に抵抗するクーデタ計画を描く

岡本喜八「ダイナマイトどんどん」 やくざの平和で民主的な抗争

岡本喜八「ジャズ大名」 幕末にジャズをたのしむ大名





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