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深作欣二「魔界転生」:天草四郎の怨念と復讐



深作欣二の1981年の映画「魔界転生」は、「柳生一族の陰謀」に続き、深作にとっては二本目の時代劇。主人公を天草四郎に設定してあるが、島原の乱とはほとんど関係がない。死後魔界から蘇った天草四郎が、徳川幕府に復讐することを目的に、不意の死をとげた人物たちを魔界から呼び寄せ、ともに徳川の権力に立ち向かうというような内容である。時代劇ではあるが、史実への頓着はいっさいない、勝手な人物像を捏造して、それを勝手な具合に組み合わせて、ただただ面白おかしくしているだけのことである。観客はそういったことたなにあげて、奇想天外なアクションシーンを楽しめばいいというわけである。

天草四郎が仲間に選んだのは、細川ガラシャ、宮本武蔵、奈良宝蔵院の槍術僧、伊賀の忍者である。徳川時代の初期に実在したという以外には、なんら共通点のない人物たちである。天草四郎が徳川に遺恨を持つのはわかるが、ほかの人物にそういう動機はない。それなのに無理にかれらを徳川の敵にしたてている。だがそんなことはどうでもいいとばかり、とにかく魔界から蘇った亡霊たちが、徳川をきりきり舞いさせればいいのである。

そんな彼らに柳生十兵衛がたちはだかる。十兵衛は最後に天草四郎の亡霊を滅ぼし、徳川を守るのであるが、なぜ十兵衛にそんな役を持たせたのか。これもとくに理由はない。強力な亡霊に立ち向かうには、それなりに強い人間が必要であり、時代背景にふさわしいそんな人物としては柳生十兵衛くらいしか考えられないというわけだろう。

その柳生十兵衛が、亡者となった父親の柳生田島と対決したり、その前に、死んだ田島が魔界から蘇ったり、魔界から蘇った田島が江戸城でおおあばれしたりするシーンがある。息子の十兵衛は、亡者となった父親を倒した後、天草四郎と果し合い、四郎の首をはねるのである。

こうしたメーンプロットにさまざまな歴史上の出来事がサブプロットとしてはさまれる。もっとも派手なのは、佐倉惣五郎主導する農民一揆だ。これは下総佐倉の農民一揆に呼応して、関東一円に大一揆が生じ、そのあおりで江戸城が消失するということにしている。江戸城が実際に焼失したのは、明暦三年の振袖火事の際であって、佐倉の農民一揆とは関係がない。そうしう無関係なことを、さも関係ありそうに演出するところに、この映画の不真面目さを感じさせられる。

天草四郎を沢田健二が、柳生十兵衛を千葉真一が演じている。沢田は、島原の乱とは切り離され、遺恨を抱いた亡霊ということになっているので、映画全体の主役は生きている十兵衛を演じた千葉のほうだと言えそうである。




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