壺齋散人の 映画探検
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深作欣二の映画:代表作の解説


深作欣二といえば、1970年代に一世を風靡した「仁義なき戦い」の印象があまりにも強烈なので、やくざ映画の巨匠としてのイメージが強い。たしかに深作は、「仁義なき戦い」シリーズ以外にもやくざ映画を多く手掛けている。また、やくざ映画以外のアクション映画を多く作っている。そういう点では、アクション映画を得意とした監督といってよいかもしれない。

だが、それだけではない、「柳生一族の陰謀」のような時代劇は、アクション映画の時代劇版といえなくもないが、「人生劇場」、「火宅の人」といった文芸ものや、「華の乱」のような伝記もの、あるいは「忠臣蔵外伝 四谷怪談」のようなホラー映画も作っている。結構幅広いジャンルの作品を手掛けているのだ。

「仁義なき戦い」シリーズは、日本映画の常識を覆すものだった。それまでの日本のやくざ映画といえば、任侠映画が主流で、義理と人情の間を揺れ動く男の世界を描いていた。高倉健演じるやくざはそうした映画の典型的なヒーローだった。ところが深作欣二の映画に出て来るやくざたちは、義理と人情など屁とも思っていない。かれらは打算だけで生きており、自分の目的を貫くためには、容赦なく暴力を振るう。その暴力の表現が、深作の映画の場合はあまりにも強烈で、えげつないともいえるほどだったので、日本社会に大きなショックを与えたのだった。菅原文太が演じるやくざは、冷徹な打算のうえで、あたかもゲームをしているような感覚で暴力を振るう。その暴力の描写は、日本映画にそれまでなかったものだ。そうした暴力の描き方は、それなりの影響を日本映画に残したといえる。それをもっとも強く相続したのは北野武であろう。

深作の所属していた東映が、やくざ映画以外の路線を模索する動きを始め、それにこたえる形で1978年に、かれとしては初めての時代劇である「柳生一族の陰謀」を作った。これは史実を無視した荒唐無稽なフィクションで、もっぱら、アクションシーンの醍醐味を狙った作品といってよかった。そうした荒唐無稽さは、時代劇の第二作「魔界転生」にも認められる。これは天草四郎を主人公にした亡霊の怨念譚で、やはり人を食ったものであった。深作はそうした不真面目ぶりを反省したのか、以後、あまり荒唐無稽な映画は作らなくなった。

深作にとって、真面目な映画への転機となったのは、1981年に蔵原惟人と共同で作った「青春の門」と、その翌年に単独で監督した「道頓堀川」、「蒲田行進曲」である。「道頓堀川」は大都会の一角で慎ましく生きる庶民の生活ぶりを描いたもので、やくざ映画とは対極の雰囲気をもったものだった。また「蒲田行進曲」は、松竹蒲田撮影所のありし日の青春群像を描いたもので、これもやくざ映画とは対極的な雰囲気をもったものだった。

1983年の「人生劇場」は、尾崎士郎の有名な小説を映画化したもの。「青春の門」はこの小説にインスパイアされて書かれたというが、以前「青春の門」を手掛けた深作欣二としては、本家の小説を映画化したわけである。

「仁義なき戦い」が日本のやくざ映画をある意味代表するとすれば、1986年の「火宅の人」は、深作映画の集大成といえるのではないか。檀一雄の自伝的な小説を映画化したこの作品は、色々な意味で日本人の日本人らしさを物語っている。我々現代日本に生きているものは、この映画を通じて、日本人とは何かを強く意識させられるのである。

ここではそんな深作欣二の作品世界の魅力について、代表作を取り上げながら、適宜解説・批評していきたい。


深作欣二「仁義なき戦い」:やくざ映画の通念を変えた作品

深作欣二「仁義なき戦い 広島死闘篇」


深作欣二「仁義なき戦い 代理戦争」

深作欣二「仁義なき戦い 頂上作戦」

深作欣二「やくざの墓場 くちなしの花」:警察と暴力団の癒着

深作欣二「柳生一族の陰謀」:三代将軍職相続をめぐる暗闘

深作欣二「魔界転生」:天草四郎の怨念と復讐

深作欣二「道頓堀川」:宮本輝の小説を映画化

深作欣二「蒲田行進曲」:つかこうへいの舞台作品

深作欣二「人生劇場」:尾崎四郎の小説を映画化

深作欣二「上海バンスキング」:ジャズ・ミュージシャンたちの青春群像

深作欣二「火宅の人」:檀一男の自伝的小説

深作欣二「華の乱」:与謝野晶子の半生

深作欣二「忠臣蔵外伝・四谷怪談」:原作とは全く違った物語

深作欣二「バトルロワイアル」 優生主義的サバイバルゲーム



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