壺齋散人の 映画探検
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チャップリンの映画:作品の解説と批評


チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin 1889-1977)といえば、サイレント時代から活躍し、世界の映画史上もっとも輝かしい業績を残した映画人である。世界中知らないものがないくらいであり、死後数十年たった今でも、人々の記憶に残り続けている。その理由は、彼の映画が単なる娯楽作品であることを超えて、時にはユーモアの中に人間性の本質を垣間見せたり、同時代の政治に鋭い視線を向けたことにある。チャップリンが活躍した20世紀前半という時代は、全体主義とか帝国主義が猛威を振るい、また血なまぐさい戦争に彩られていた時代だった。そうした時代にあってチャップリンは,人間性の名において、正義の実現を訴えた。そうした姿勢が、同時代の共感を呼んだとともに、それを超えて人々に勇気を与え続けたからだと思う。

チャップリンは、芸人の子としてイギリスに生まれ、幼い頃から舞台に立った。それゆえチャップリン独特の身体演技は、幼少時代から身に着けた、筋金入りのものだったのである。若くしてロンドンで名声を博したチャップリンは、アメリカ巡業中に、映画プロデユーサー、マック・セネットの目にとまり、ハリウッド入りした。そして早速監督兼俳優として喜劇映画を作るようになる。だぶだぶズボンに山高帽とといったいでたちは、二作目から採用しており、以後チャップリンのトレードマークとなった。

チャップリンの作品には二つの系列がある。一つはパントマイムを中心にしたドタバタ喜劇。もう一つは、「モダン・タイムズ」や「独裁者」を典型とする同時代への鋭い批判だ。ドタバタ喜劇は、サイレント時代のアメリカ映画にとってドル箱で、チャップリンのほかにもバスター・キートンとかハロルド・ロイドらが人気を博したが、チャップリンの人気は飛びぬけていた。チャップリンのドタバタ喜劇は、単に人を笑わすだけではなく、風刺を通じてなにかしら人に考えさせるところがあった。そういう傾向は、ややもすれば作品を単調にするリスクも抱えているわけだが、チャップリンは絶妙なセンスで、笑いと風刺を共存させた。「チャップリンの移民」や「担え銃」はその代表的なものである。

チャップリンのサイレント映画の傑作は、「犬の生活」のような数多くの短編映画のほかに、「キッド」とか「黄金狂時代」などがある。「キッド」は、浮浪者と彼が見つけた赤ん坊との心温まる交流を描いたもので、世界中で大ヒットした。また「黄金狂時代」は、ゴールドラッシュに狂奔する愚かなアメリカ人たちをユーモラスに描いたもので、チャップリンの風刺の精神が強烈に出たものだった。そうしたチャップリンの風刺と社会批判の精神は、トーキーになると一層前面に出て来るようになる。

チャップリンのトーキー第一作「モダン・タイムズ」は、同時代の文明批判の作品として、映画史上に残る傑作といってよい。この映画の中でチャップリンは、人間が機械を使うのではなく、かえって機械に使われる姿を描くことで、資本主義の非人間性を鋭く批判して見せた。この映画の意義は、無論文明批判だけにあるのではなく、喜劇作品として考え抜かれた演出にあることもいうまでもない。

「独裁者」は、当時全盛を誇っていたヒトラーを痛烈に批判したものだ。この映画を通じてチャップリンは、ファシズムの非人間性と凶暴さについて、力を込めて語ったといえる。映画のなかでヒトラーと間違えられた床屋が、ドイツ人の群衆を前に演説するシーンは、映画史に残る名シーンといってよい。

晩年のチャップリンは、政治的な迫害を受けたこともあり、映画作りがままならなくなった。チャップリンには、資本主義批判がもとで、容共的だとする批判が一部にあったが、1950年代にマッカーシーによる赤狩りが始まると、その矢面に立たされ、ついにはアメリカから事実上追放されてしまったのだ。チャップリンを憎んでいた人々にとってとりわけ許せなかったのは「殺人狂時代」だったといわれる。この作品の中での、人を一人殺すと殺人犯になるが、大勢殺すと英雄になれるという言葉が、折から戦争に熱中していた勢力の逆鱗に触れたのである。

チャップリンには、政治的な迫害を受けてもそれに屈しない精神力があった。そうした精神力に支えられた毅然とした姿勢が、人々の共感を呼んだのだと思う。ここではそんなチャップリンの代表作を鑑賞しながら、適宜解説・批評を加えたい。


チャップリンの勇敢(Easy Street):社会風刺を盛り込んだ本格的喜劇

チャップリンの移民(The Immigrant)  アメリカへやってきた移民仲間の話

チャップリンの冒険(The Adventure)  アメリカの警察をおちょくるチャップリン

チャップリン「犬の生活」:野良犬と宿無し人間

チャップリン「担え銃」:戦争を笑いのめす

チャップリン「サニーサイド」:田園の長閑な恋

チャップリン「キッド」 :チャップリンの自伝的作品

チャップリン「黄金狂時代」: ゴールドラッシュに翻弄する人々を風刺する

チャップリン「サーカス」:ドタバタ喜劇の精神

チャップリン「街の灯」:コメディ・ロマンスの傑作

チャップリン「モダン・タイムズ」:痛烈な機械文明批判

チャップリン「独裁者」:ヒトラーの独裁を批判

チャップリン「殺人狂時代」:殺人の横行する時代を批判

チャップリン「ライムライト」:ミュージカル・コメディ



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