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ダルデンヌ兄弟の映画:代表作の解説


ジャン・ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟(Jean-Pierre & Luc Dardenne)は、ベルギーを代表する映画監督である。つねに一緒に行動したので、ダルデンヌ兄弟といわれる。ベルギーの中でもフランス語圏の出身で、フランス語で映画を作っており、フランス映画の一環に繰り入れられることが多い。作風は、社会批判的な視線を強く感じさせるものであり、その点では、イギリスのケン・ローチと並び称される。もっともローチとは違って、歴史意識は感じさせず、あくまでも現代社会の抱える問題を深く掘り下げて追及しようとする意欲に貫かれた作風である。

出世作は、1999年の作品「ロゼッタ」。母親と二人で、トレーラー・ハウスで暮らしている若い女性が、職場をクビになり、なんとか職を確保しようとしてあせる様子を描く。そのあげく他人を蹴落として自分を守ろうとすることに深い罪悪感を抱くといった内容で、まさに現代ベルギー社会における格差と貧困をするどく告発したものだった。この映画のなかに見られるそうした社会批判意識が、その後の彼らの映画作りの基調となった。

2002年の映画「むすこのまなざし」は、自分の息子を殺した少年を指導することになった職業訓練校の教員の悩みがテーマ。これは、直接社会問題を描いたようには見えないが、その少年が子供を殺したのは、金がないために衝動的に盗みを働こうとして、はずみで幼い子供の首をしめたとなっていることに、犯罪の背景としての社会の矛盾が垣間見えるというふうに作られている。

2005年の作品「ある子供」は、子供のようにあさはかな青年を描く。青年は生活保護で暮らしており、汗水流して働くのはばかばかしいと思っている。金が必要になると、パートナーの女性からせびり、あげくは生まれたばかりの子供を売ってしまう。ベルギーには、闇の人身売買システムがあるようなのだ。そんな青年の生き方に、ベルギー社会のいびつさを感じさせるように作られている。

2008年の作品「ロルナの祈り」は、アルバニアからやってきた若い女性が、ベルギーの国籍を取得するために、偽装結婚などの細工をするというような内容で、これも弱者を食い物にする闇のシステムをテーマにした作品である。

2011年の作品「少年と自転車」は、父親に遺棄されてもなお、父親を慕う少年を描いた作品。父親は、貧しさを理由に自分の子供を拒絶するのだ。2014年の作品「サンドラの週末」は、会社から解雇通告を受けた女性が、身分の保全を求めて戦う様子を描く。女性は、かつての同僚に協力を呼びかけるが、応じてくれるものもいる一方、拒絶するものもいる。彼女の代わりに自分が解雇されるのをおそれているのだ。そこに弱いもの同士の間の分断を感じさせる作品である。

2016年の作品「午後八時の訪問者」は、ある女性医師のこだわりを描いた作品。自分に助けを求めにきた黒人女性が、謎の死を遂げる。そこに責任を感じた女性医師が探偵まがいのことをするのだが、その過程で移民の境遇とか様々な問題に直面するというような内容である。また、2019年の作品「その手に触れるまで」は、イスラムの過激思想に染まるムスリムの少年をテーマにしたもので、ベルギーにおける宗教的な分断を描いている。

以上、ダルデンヌ兄弟の映画は、一貫して強い社会的な問題意識を背負っており、きわめてメッセージ性の強い作風といってよい。ここではそんなダルデンヌ兄弟の作品を取り上げ、鑑賞しながら適宜、解説批評を加えたい。


ダルデンヌ兄弟「ロゼッタ」:ベルギーの下層社会

ダルデンヌ兄弟「息子のまなざし」:愛と許し

ダルデンヌ兄弟「ある子供」:子供の心のまま大人になってしまったような人間

ダルデンヌ兄弟「ロルナの祈り」:アルバニアからベルギーにやってきた女性移民

ダルデンヌ兄弟「少年と自転車」:親に捨てられた子供

ダルデンヌ兄弟「サンドラの週末」:雇用をかけた戦い

ダルデンヌ兄弟「午後8時の訪問者」:若い女性医師の職業的な責任感

ダルデンヌ兄弟「その手に触れるまで」:ベルギーのイスラム・コミュニティ





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