壺齋散人の 映画探検
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アンジェイ・ワイダの映画:作品の解説と批評


アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda)は、ポーランド映画を代表する監督である。ポーランド映画は彼の名と不可分に結び付いており、かれとともに歩んだといってよい。社会主義体制から「連帯」の時代を経て、資本主義体制の時代まで生き続け、その時代時代に応じて、祖国ポーランドに向けて、熱いメッセージを投げかけ続けた。そういう点では、世界の映画史レベルでも、もっとも政治的な映画作家といえる。

1955年に「世代」でデビューした。これはナチス占領下におけるポーランド人のレジスタンスをテーマにした作品である。戦後各国で多く作られたレジスタンス映画の傑作の一つである。ついで「地下水道」では、ナチスへの反撃を目的としたワルシャワ蜂起を描いた。蜂起に失敗して地下水道を逃げ回るポーランド人の絶望がテーマである。三作目の「灰とダイアモンド」は、ナチスへのレジスタンスではなく、ナチスドイツ降伏後における、亡命政権と革命政権との対立をテーマにした。この対立についてワイダ自身は、亡命政権のほうに肩入れしていることが伝わってくる。もっともこの映画が時の政権から忌避されることはなかった。

以上の三作をあわせて「抵抗三部作」と呼ぶ。その後もアンジェイ・ワイダらしい社会的な視線を感じさせる作品を作り続けた。傍ら青春ものやコメディタッチの作品も作っているが、ワイダの真骨頂はポーランドをモチーフにした政治的メッセージ性の強い作品にあったといってよい。

1977年に作った「大理石の男」は、1950年代の社会主義建設期におけるポーランド社会の息苦しい雰囲気を描いている。これはある労働英雄の半生を追った映画作家の行動を描いたものだが、その描き方が、ポーランドの社会主義に否定的だという理由で、上映禁止措置を受けた。そこでアンジェイ・ワイダは密かに海外に持ち出し、カンヌで強行上映したところ、拍手喝さいを浴びたといういきさつがある。

1981年の「鉄の男」は、「大理石の男」の続編と銘打ち、グダンスクにおける「連帯」の運動に共感を示している。「連帯」の登場によって、ポーランド社会にも自由にものをいえる雰囲気が定着し、アンジェイ・ワイダのように社会主義体制に批判的だった人物にも自由に政治的なメッセージを発することができるようになった。

以後ワンジェイ・ワイダは、歯に衣を記せず、自己の政治的信念を率直に表明する作品を作った。2013年の「連帯の男」は、ポーランド民主化の立役者レフ・ワレサへのオマージュであり、2016年の「残像」は、ポーランドにおける社会主義体制をほぼ全面的に否定するというものだった。

その一方、ポーランド人の民族感情に訴える「カティンの森」のような作品も作っている。これは第二次大戦勃発当初に、ポーランド軍の中核がソ連軍によって大量虐殺された事件を描いたものだ。ソ連はそうすることでポーランド軍を無力化することを狙ったといわれる。こういう陰惨な歴史があるために、ポーランド人はロシア人に対して心から友好的になれないと言われる。

こうしてみると、アンジェイ・ワイダは、一方ではポーランド人の民族感情に訴えるとともに、社会主義体制には嫌悪感を表明しつづけたといえる。ここではそんなアンジェイ・ワイダの代表的な作品をとりあげて、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。

アンジェイ・ワイダ「世代」:レジスタンスに身を捧げる若者たち

アンジェイ・ワイダ「地下水道」:ワルシャワ蜂起を描く


アンジェイ・ワイダ「灰とダイアモンド」:ポーランド内部の政治的対立


アンジェイ・ワイダ「大理石の男」:社会主義建設期のポーランド社会


アンジェイ・ワイダ「カティンの森」:ポーランド将校団の虐殺

アンジェイ・ワイダ「ワレサ 連帯の男」:レフ・ワレサの民主化運動

アンジェイ・ワイダ「残像」:前衛芸術家ヴワヂスワフ・ストゥシェミンスキ




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