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男はつらいよ純情篇:寅さんシリーズ第六作



「男はつらいよ純情篇」は寅さんシリーズ第六作、公開は1971年正月。寅次郎と二人の対照的な女性との触れ合いが主なテーマ。二人のうち一人は夫の暴力から逃れて実家に身を寄せ、それに寅次郎が寄り添う。もう一人は、虎屋に住み込みで働くようになった女性に、帰郷した寅次郎が一目ぼれし、メロメロになるというもの。これに、虎屋の家庭騒動を絡めている。

宮本信子演じる一人目の女性とは、長崎で知り合う。一文なしで子どもをかかえた女に同情した寅次郎は、宿屋に泊まらせてやったうえに、女を五島列島の小さな島まで送って行ってやる。そこで女の父親(森繁久彌」と会った寅次郎は、この父親なら安心と思い、島から去る。特に恋のもつれはない。

帰郷した寅次郎は、店に住み込みで働いていた若尾文子に一目惚れする。彼女は作家の夫に愛想をつかし、遠い親戚の虎屋を頼ってきたのだった。その女性に寅次郎はメロメロになるのだが、なにせ相手は人妻だし、寅次郎とはあまりにも釣り合いがとれない。というわけで寅次郎の一方的な片思いで終わる。

虎屋の家庭騒動は、さくらの夫博の独立の意思から始まった。博の独立の意思を知ったタコ社長が、なんとか翻意してもらおうと、寅次郎に相談する。寅次郎は、博には是非独立せよとはっぱをかけながら、タコ社長には博を翻意させることを約束する。この二枚舌的な寅次郎の行動が、家庭騒動を呼ぶわけである。

そうした寅次郎の振舞いは、かれのお人よしのあらわれだが、そのお人よしぶりがあまりにも常軌を逸しているために、周りにいらぬ騒ぎを巻き起こすのである。その騒ぎを見ていると、寅次郎はただのお人よしを超えて、意志薄弱なのではないかと思わせられる。まるで虚言癖のある子どもを見るようなのだ。そのため寅次郎は、子分格の源公にも笑いものにされる始末。とことん思慮の足りないキャラクターになっている。これはおそらく、シリーズが始まってまもなく、寅次郎の人間像が確立されていないことを物語るのだろう。

最後に五島の女が亭主を伴なって虎屋を訪れ、夫婦ともども住み込みで働くことになる。この女に対しては、寅次郎は最後まで面目を保つというわけである。

なお、寅さんシリーズは第五作で完結する予定だったところ、評判が高まったことを受けて、第六作目以降も作られることになった。この「純情篇」はシリーズ延長の端緒を飾るものである。


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