壺齋散人の 映画探検
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ポン・ジュノの映画:作品の解説と批評


ポン・ジュノ(奉俊昊)は現代の韓国映画を代表する監督である。2019年の「パラサイト」は、カンヌの国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、韓国映画の存在を世界中に知らしめた。日本映画にとって黒沢が果たした役割に相当するものを、ポン・ジュノは果たしたわけである。その作風は、「パラサイト」に典型的にみられるように、現代韓国社会に対する強い批判意識に支えられている。その批判意識が時の朴槿恵政権を刺激して、注意人物としてブラックリストに記載されたほどである。

短編映画作りから始め、長編映画の脚本などを手掛けたのち、2000年の長編映画デビュー作「吠える犬は噛まない」で注目された。これは格差社会化が進む韓国での出世競争を描いた作品で、ポン・ジュノの作風である社会への批判的な視線を早くも感じさせたものである。

二作目の「殺人の記憶」は、殺人事件をめぐるサスペンス・ドラマだが、サスペンスの醍醐味はともかく、事件処理をめぐる警察の無能を強く感じさせるように作られている。この手の映画では、警察はわき役にすぎないのが普通だが、この映画では、警察の無能さをあざ笑うような演出が、強いインパクトをもたらしている。日本で警察が否定的に描かれるのは、冤罪をでっちあげる非情な体質への批判という形をとるのが普通だが、韓国では、冤罪をでっちあげる能力ももたない無能な連中というふうに思わせられる。

三作目の「グムエル」は、韓国版「ゴジラ」というべき怪獣映画である。日本のゴジラが水爆実験によって目覚めたことになっていたように、この映画の怪物も、生物実験かなにかで目覚めたということになっている。その実験をしたのは米軍であるから、この映画は韓国を植民地扱いするアメリカへの批判ということもできる。

四作目の「母なる証明」は知的障害を持った息子の冤罪を晴らそうとする母親の執念を描き、五作目の「スノーピアサー」は地球の破滅を生き残った人類の最後の日々を描いている。どちらも限界状況におかれた人間が直面する不条理さがテーマである。

そして代表作というべき「パラサイト」は、ホームレスにかぎりなく近い家族の生きざまを描いた作品である。この作品の中で、ポン・ジュノの批判意識はもっとも尖鋭な形で展開される。パラサイトとは寄生虫という意味であるが、この映画の中の家族は、他人の家に寄生しながら生きているのである。他人の家とはいえ、屋根のある家に住めるのはそれなりにラッキーなことだ、といったような冷めた視線が強く伝わってくる映画である。

以上見たように、ポン・ジュノの映画作品は、どれをとっても強い社会批判意識を感じさせる。その点は、同世代の日本の映画作家是枝裕和と似ているところがある。ここではそんなポン・ジュノの作品を取り上げ、鑑賞の上適宜解説・批評を加えたい。


ポン・ジュノ「ほえる犬は噛まない」:格差社会の出世競争

ポン・ジュノ「殺人の追憶」:警察の無能を描く

ポン・ジュノ「グエムル-漢江の怪物」:韓国版ゴジラ

ポン・ジュノ「母なる証明」:息子の冤罪に立ち向かう母親

ポン・ジュノ「スノーピアサー」:地球の破滅を生き残った人類

ポン・ジュノ「パラサイト 半地下の家族」:他人の家に寄生する家族




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