壺齋散人の 映画探検
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河瀬直美の映画:作品の解説と批評


河瀬直美は、西川美和と並んで日本の女性監督を代表するだけでなく、21世紀の日本映画を代表する監督である。その存在感は非常に大きなものがる。女性的な感性を前面に出すことによって、日本映画の質を変えたといえる。

21世紀に入ってからの日本映画に顕著な変化が現れたといえば、それは女性監督が増えたということである。20世紀にも女性監督が存在しなかったわけではないが、ほとんど添え物程度にあしらわれた。実際そのとおりだといってよかった。しかし、21世紀に入ってあらわれた女性監督たちは、添え物などではない。男性監督には描けないような表現をするし、世界の見方も違う。彼女らの登場によって日本映画は、深まりと広がりを見せるようになったといえる。

そんな21世紀の女性監督を代表するのが河瀨直美なのである。河瀬直美は、女性らしい肌理細かな視点から、潤いのある映画作りをしている。河瀬の映画は、美しい自然描写が最大の売りで、その美しい自然を背景にして、今の時代を生きる日本人たちの精いっぱいの生き方を、ウェットなタッチで描き出す。河瀬の映画には、映像をして語らしめるというところがあって、わかりづらいところもあるが、下手な説明よりもかえって説得的である場合もある。

河瀬は又、社会的な視線を強く感じさせる映画も作っている。「あん」はハンセン病患者への差別をテーマにしたものだし、「光」は障害を抱えた男女の恋愛をテーマにしていた。また近年(2020年)の映画「朝が来る」は、特別養子縁組をテーマにして、親子関係について考えさせている。もっともその切り口は鋭さを感じさせるというよりも、問題の所在をなんとなくわからせるといったていのものであるが。

河瀬は、出身地である奈良に深い愛着があるらしく、奈良を舞台にとった映画が多い。出世作となった「萌の朱雀」は奈良を舞台にしたもので、外国でも評判になった。それは筋書きの意外さによるよりも、自然描写の美しさによるものであったようだ。こうした自然描写は河瀬の映画の生命ともいえる要素で、彼女のほとんどの映画でこだわりをもって表現されている。タイを舞台にした映画「七夜待」でさえも、タイの自然を潤い溢れる映像で表現している。

河瀬が東京オリンピックの公式記録映画の監督に選ばれたのは、彼女の自然描写のすぐれた技術を、オリンピックの記録にも生かせようという配慮からだと思う。河瀬直美自身は、単なる競技記録にとどまらず、市川崑が東京オリンピックを情感豊かに表現したような、芸術性のあるオリンピック映画を作りたいと言っているようである。

もっともそうした河瀬自身の思い込みとは別に、このオリンピックはさまざまなスキャンダルに見舞われたことで、日本人全体が一致した支持を表明するというわけにはいかなかった。コロナ対策と称して、史上初の無観客試合になったし、また組織委員会の会長がみっともない舌禍事件を起こして辞任する事態に追い込まれたりした。五輪実施反対を叫ぶ声も大きかった。そんなわけで、この映画には、前回の東京オリンピックの際に見られた国民の感動は伝わってこなかった。だが河瀬は河瀬なりに、そうしたオリンピックの実情をなるだけありのままに記録しておこうとする姿勢がみられる。

ここではそんな河瀬直美の代表的な作品を取り上げて、鑑賞しながら、解説を加えていきたい。


河瀬直美「萌の朱雀」家族の解体を描く

河瀬直美「殯の森」
孤独な老人の死を描く

河瀬直美「七夜待」タイを舞台に若い女性の生き方を描く

河瀬直美「朱花の月」自然の中の男女の不倫を描く

河瀬直美「二つ目の窓奄美大島を舞台に少年少女の成長を描く

河瀬直美「あん」ハンセン氏病患者への偏見を取り上げる

河瀬直美「光」問題を抱えた男女の恋愛を描く

河瀬直美「パラレルワールド」若い男女の恋を描いた短編作品

河瀬直美「朝が来る」:特別養子縁組をテーマ

河瀬直美「東京2020オリンピック SIDE:A」

河瀬直美「東京2020オリンピックSIDE:B」:大会の裏の記録




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