壺齋散人の 映画探検
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西川美和の映画:作品の解説と批評


21世紀の日本映画最大の特徴は女性監督の著しい活躍だといえるが、西川美和は河瀬直美とならんで、その21世紀日本映画を牽引するリーダー的な存在だ。河瀬のほうがやや年長で、すでに20世紀のうちから映画作りをしていたが、ブレイクするのは21世紀に入ってからで、やはり21世紀早々活躍を始めた西川美和とともに、一躍日本映画の未来を担う存在として評価された。

河瀬に比べると、西川美和の監督作品は多くはないが、どれも傑作と言うにふさわしい作品ばかりだ。その作風は、筋がしっかりしていて、しかもドラマチックなところがあり、女性監督としては骨の太さを感じさせる。それに対して河瀬のほうは、ドラマ性よりも、人間の表情とか自然の描写に拘るタイプで、西川美和を硬派とすれば、女性らしい柔らかさを感じさせる柔軟派の作風である。

西川美和には、社会性を感じさせるところもある。これは仲よく仕事をすることがあるらしい是枝裕和の影響もあるのか。その社会性は、最初の二作では表面に出ていなかったが、実質上の第三作「ディアドクター」あたりから明確な形で出て来る。「ディアドクター」は、医療過疎地と呼ばれるところを舞台にして、医師資格を持たない男の医療活動を描いたものだったが、そこには日本の医療が抱える問題への、するどい疑問が込められていた。

四作目の「夢売る二人」は、ある種の結婚詐欺をテーマとしたもので、近年流行っている結婚詐欺もどきの話にインスピレーションを受けたのだろう。また、五作目の「永い言い訳」は、妻を失った男が自分の人生の意味を見失い、そのことで自分自身に対して生きていることの言い訳を続けるというような内容のものだった。これも、世の中に生きることのむつかしさを正面から捉えているという点で、社会性を感じさせる作品だ。

これらに対して、初期の二作「蛇いちご」と「ゆれる」は。西川自身が見た夢がきっかけだったという。夢だから色々な事柄が出て来ると思うのだが、西川美和はその中から映画になりそうなものを選んで、シナリオに仕上げたということらしい。自分の夢を映画にするというのは、ほとんど聞いたことがないので、これは西川美和と言う映画作家の特技なのだろう。

西川美和にはまだこれから先十分な伸びしろがあり、是非映画を作り続けてほしいものである。(2021年には、刑務所から男の社会復帰を描いた映画「素晴らしき世界」を作った。役所広司の演技も素晴らしいが、西川の演出も円熟の域に達したことを感じさせた)


西川美和「蛇イチゴ」:家族の解体する過程

西川美和「ゆれる」:女をめぐる兄弟の葛藤


西川美和「ディア・ドクター」:愛される偽医師

西川美和「夢売るふたり」:男を使役する女

西川美和「永い言い訳」:自分自身への言い訳

西川美和の映画「素晴らしき世界」:囚人の社会復帰




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