壺齋散人の 映画探検
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新藤兼人の映画:作品の解説と批評


日本の映画監督のなかでも、新藤兼人はきわめてユニークな存在だ。大手映画会社が君臨していた時代から、新藤は自主独立の態度をつらぬき、したがって自分の作りたい映画だけを作るといった、ある意味では、芸術家としての理想的な態度を貫き通した。その制作姿勢は、「原爆の子」や遺作となった「一枚のはがき」に至るまで、強烈な問題意識に貫かれていた。こんなに自分の問題意識を映画の中で表現し続けた映画監督は、世界中を探しても、そう多くはいない。

シナリオ・ライターとして出発した新藤は、1951年に処女作の「愛妻物語」を作って以来、半世紀以上にわたって映画を作り続けた。遺作となった「一枚のはがき」は、実に99歳の時に作ったものだ。その翌年に新藤は、100歳の寿命を全うして大往生した。

その新藤兼人の問題意識は、いくつかの領域に分類できる。「原爆の子」や「さくら隊散る」に代表されるような核への強烈な批判を押し出したもの。これは言い換えれば社会的な視点を前面化したものと言えるが、そうした社会的な視点は、「縮図」や「どぶ」など、女にとって生きづらい日本社会への批判にも見られる。新藤は、溝口健二や成瀬巳喜男と並んで、日本のおける女性の生きづらさを正面から描いた作家だといえる。

新藤兼人にはまた、女性問題だけではなく、家族問題を取り上げたものもある。「絞殺」は家庭内暴力を描いたものだし、「生きたい」は現代における姨捨山というべきものを通じて、老人問題に焦点を当てた。一方、「鬼婆」や「鉄輪」のように、時代劇を様式的に描いたものもある。「鬼婆」は、新藤自身が自分のもっとも納得できる作品だといっている。

新藤自身の自己評価とは別に、新藤の代表作として国際的に認知されている作品は「裸の島」だ。これは無言劇であるが、離島に暮らす家族の絆を描いたもので、家族とはなにかについて、考えさせる内容になっている。

新藤兼人には、セックスを正面から描いた一連の作品がある。「鬼婆」のなかでは、若い男女が全裸で戯れあう場面が出て来るが、晩年に近づくほど、新藤の映画にはセックス描写が増える。「濹東綺譚」はその最たるものだ。新藤は永井荷風が好きらしく、荷風についての著作もあるが、この映画では、生来好色であった荷風の女遍歴を、赤裸々に描いている。

こんな具合に、新藤兼人は実に多彩な映画作りをしたといえるのだが、それにはかれの長寿も働いている。なにしろ百歳になる直前まで映画を作り続けたのである。ここではそんな新藤兼人の代表的な作品を取り上げて、鑑賞のうえ、適宜解説批評を加えたい。


新藤兼人「原爆の子」:原爆災害を世界で初めて描く

新藤兼人「縮図」:徳田秋風の小説を映画化


新藤兼人「どぶ」:知恵遅れの女の悲しさ

新藤兼人「裸の島」:離島を舞台の無言劇

新藤兼人「鬼婆」:人間の根源的欲望

新藤兼人「藪の中の黒猫」:怪談仕立ての時代劇

新藤兼人「裸の十九才」:永山則夫の連続射殺事件

新藤兼人「鉄輪」:女の嫉妬をテーマにした能作品

ある映画監督の生涯:新藤兼人の溝口健二へのオマージュ

新藤兼人「竹山ひとり旅」:放浪芸人高橋竹山の生涯

新藤兼人「絞殺」:息子殺し

新藤兼人「北斎漫画」:葛飾北斎の生涯

新藤兼人「さくら隊散る」:演劇人の被爆

新藤兼人「濹東綺譚」:永井荷風のセックス・ライフ

新藤兼人「午後の遺言状」:老いることの意味

新藤兼人「生きたい」:現代の姥捨山

新藤兼人「三文役者」:殿山泰司の半生

新藤兼人「一枚のはがき」:戦争に引き裂かれた人生



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